「新社会人にあなたならまず何を教えるか?」の私的まとめ

http://www.dd.iij4u.or.jp/~okuyamak/Documents/index.html#PointForNewbies

【1】
新社会人に2つのことを教える。
・CS(CustomerSatisfaction)
・AT(Automation)

【2】
CustomerSatisfaction = T x T x F
= T (Technology「技術力」)
x T (Transfer/Translate「伝える力」)
x F (Focus 「焦点」)

【3】
現代の職業は分業で成り立っている。
分業することで、各自自分が専門とするものに集中でき、
社会全体がより高い品質の製品やサービスを手に入れられるようになった。
この「分業」の単位になるものの一つが”技術”だ。

プログラムの場合はその数学的な構造が理解できるとか、構造を作り上げる
ことが出来る、と言ったものが”技術”であって、C言語は文字通り「言語」
に属する特性なのだ。

この”技術”というものは純粋化していくと、数学に帰着する。
釘の打ち方、鍋の振り方でさえ、数学に帰着するのだ。

このため、世の中の様々なことを適切な数学モデルに翻訳できた場合、
応用性が非常に高い。
ジェネラリストを育てたかったらまずスペシャリストになれ、
最初にジェネラリストを目指そうとすると、太鼓もち以上にならない、
というのはこれゆえである。

【4】
”伝える力”で大事なこと。
1.相手に伝えたい事は何かをはっきりさせること
2.相手に応じて伝え方を変えること

仏陀仏陀たる所以は、「悟っていない人に、自分は悟っており、相手を悟
らせることが出来る」と説得できたことにあるのだ。

ここでいう「悟る」というのが Technology にあたる。人間を相手に
Communication をはかる場合に重要なのは、
「技術を理解していない相手に、自分は技術を理解している事を伝える」
事なのだ。

人間と言うのは「信じる」という行為を取ってくれる。
ある一定以上、相手が正しいことを理解したら、
「前提と結論との結びつきがまったく理解できないにもかかわらず」
その結論が正しい、
としてくれるのだ。

このような場合、大事なのは 1から100まで全てを伝えることではない。
まず、相手に自分がいう事を信じるように仕向けること。
次に必要最小限の前提と結論を覚えてもらうこと。
(運がよければ、その中のいくつかについては理由も理解してもらう)

「最小限度」というこの条件を満たすためには MECE の考え方は役に立つ。
重複があると、情報量としてのエントロピーは増えないのに
送受信しなくてはいけないビット数は増えてしまうのだ。
人間は「飽きる」し「疲れる」ので、余計な1ビットがあるとそれだけで
受信ミスを起こしたり、受信拒否を起こす確率が跳ね上がってしまう。

もう一つ大事なのは、文法上の間違いやあいまいさを排除する事。
読むほうにすれば、1つの文章を読んでいるだけで
何通り分もの脳みそを使えと言われたことになる。
見る見るうちに疲れ果て、読む気を失うのが先か、
読み間違えるのが先か。
いずれにせよ、あなたの目的は果たせないだろう。

【5】

お客様の Focus から外れた仕事はいかに優れていようとも、
いかに説得力に満ち溢れていようとも、評価はしてもらえない。
限界を超えて外れているとマイナスの評価さえ受ける。

そう。Technology も Transform/Translate も 0.0 から 1.0 の値をとって
いたのに対し、Focus だけは、-1.0 から 1.0 の間の値を取るのだ。

お客様が「欲しくない」物について高度な技術が投入され、それがお客様に
見える形で提示されると…お客様は激怒する。
なぜかというと、お客様はお金を払っているからだ。
自分にとって重要ではないポイントに、投資したお金を使われると、
無駄遣いされた、と感じるのは当然だ。
無駄遣いされたと感じるようになると、
0.0 ではなく -1.0 の評価を得てしまう。

Focus が甘いケースと言うのは面白いことに2種類ある。
本来あるべき焦点より手前に Focus があたっている場合と、
奥にあたっている場合があるのだ。

手前の例:本質的に必要のない部分に工数を掛ける。アイコン。
奥の例:仮想化を調べて欲しい。お客の要求に対するフィルターをしないで
    仮想化技術を詳細に調べる。(なぜ調べて欲しいかを考える)

【6】

AT:Automation・・・自動化

機械でも、人でも、猿でも何でも、一部分しか自動でなくてもよい
というイメージ。

生産性を上げる=自分の力を投入せずに他者の力を借りる。

『何をすればいいのか』
『何に対してすればいいのか』
『いつすればいいのか』
をはっきりさせて初めて、他者の力を借りる事ができる。

【7】

Automationは大きく「文具型」と「補助頭脳型」に分かれる。

文具型というのは…Office とか大抵のPCのソフトがそう。
手を動かしている間は動作してくれる。手を止めるとソフトも仕事を止める。
鉛筆などと同じ性質を持つ。

たとえば、MS-Office のソフトで英語を打つと、1 word 打つたびにスペルミ
スをチェックして自動的に直してくれます。たまに固有名詞を直してくれて、
えらい迷惑だったりしますが。これが文具型 Automation です。技術的には
on demand 型と呼ばれるものの大半がこれに当たります。

文具型は「ミスの低減」を目的とする場合に効果がある。
スペルミス、あいまいな文章の発見、計算の不一致など、
その場で発見すればワケも無く直せるが、
後でどこが間違っていると全体から見つけ出すのにすごく苦労する。

文具型 Automation はやはり、機械に任せた場合圧倒的な効果をもたらすよう
だ。レジスターの中にはおつりを自動的に必要なコインとお札で出してくれる
ものがあるが、あれだとヒューマンエラーはなくなります。

文具型 Automation(というよりこれは on demand 全般に言えることだが)
には、1つ大きな弱点がある。即時性が求められるのだ。
従って、文具型 Automation は複雑な、難しい処理はほとんど出来ない。

チェックにかかる時間がほとんど一定で済むような処理…俗に「計算量 O(1)」
と言われる類の処理しか出来ないのだ。

【8】

補助頭脳型自動化の定義は「あなたが手を止めても、ソフトは仕事を続けます」
最初になにをするのか全部教えておく。

補助頭脳型の自動化には5つのパターンがある。

完全全自動
  あなたは全く関与する必要はない。何から何まで全て、自動で行われる。

開始時点必須型
  処理を開始するときに、絶対にあなたはいなくてはならない。
  何かを始めるときにあなたがいないと、全くスタートしない。

終了時点必須型
  処理を終了するときに、絶対にあなたがいなくてはならない。
  自動で出来る処理が終わった時にあなたが側にいてすぐさま出来たものを
  次の処理に運ばなくてはならない。多くの場合、できたものに「鮮度」が
  ある時にこうなるが、他にも自動車工場のように出来てくる物が大きくて
  貯蔵スペースが足りないときもこうなる。

両端必須型
  2, 3の両方を兼ねそろえているタイプ。
  あなたがいないと作業は開始しないし、終わるときもあなたは必要。
  ただ、途中はいなくなっても構わない。

中途処理型
  2,3,4 は始まりや終わりに人手が必要だったが、このパターンは
  「作業の真ん中で」あなたの人手を必要とする。

これらは、「あなたを煩わせるタイミングが固定かどうか」で分類されている。
現実に存在しえるのは、開始時点必須型、終了時点必須型、両端必須型、中途
処理型の4つ。

【9】

自動化を考える場合、もう1つ評価軸がある。
「Automationを使って効率が上がるのか?」という評価軸。

「補助頭脳型」の場合、次の5つのような効率化が考えられる。

実行時間の短縮
  紙とソロバンで計算するのに比べて、何億倍も速く計算できるコンピュー
  ターは実行時間の短縮と言う意味では圧倒的なパワーを持っている。

  実行時間が圧倒的に短縮されると、機械を動かすための出費が多少高くて
  もコスト対効果的には十分…などの補助的な側面も出てくる。

人間が関与する時間の短縮 / 省力化
  洗濯機が良い例。洗濯において人間が関与する時間が減り、洗濯のために
  必要な体力も減った。また、それに伴い、洗濯ができる人も体力に溢れた
  人だけではなくなった。

人間が関与するタイミングの集中
  自動洗濯機や自動炊飯器、自動皿洗い機などの例は、全て機械が処理をし
  ている間、人間は自由。つまり、補助頭脳が A という仕事をやっている
  間、あなたは B という仕事をすることができる
  (もちろん、休むこともできます。つまりあなたが就寝中に自動的に処理
  が進むようにすることも出来る)。

並列処理を可能にする / 複数人数での処理を可能にする
  自動化は「なにをするのか全部教えてある」必要がある。つまり
  「なにをするのか全部教えられるぐらい明確になっている」
  と言う事は、同じようなことを複数回行う必要がある場合…たとえば、あ
  なたが会計事務所をやっていて、複数のお客様が一斉に税金申告のための
  書類作成を依頼してきた場合、何をどの順で処理すればいいのかを明確に
  してあれば、アシスタントを使って作業を複数人で並行して行うことが出
  来るようになる。

手順を明確にし、それを教えることができる
  何を、どの順で、どう処理していけばいいのか教えることが出来ると言う
  事は、それらをきちんと伝えて、理解してもらった後であれば、その背景
  にある理屈なども教えるための素地が出来上がっている。

Automation は 1,2,3 の性質から、あなたに「時間」をもたらしてくれる。

あなたが仕事をしなくても、成果が出る、
それが Automation の本質だ。

私が新人に Automation という概念を教えるのは、それ無しでは学習のための
時間が取れなくなるから。

入社後、何年たっても新しいことを吸収できるためには、そのための精神的ゆ
とりと休息時間が必要。

人間の脳みそはある種のデータ圧縮装置なので、
ゆとりがあればあるほど
(正確には脳が「ゆとりがあることを知っていれば知っているほど」)
本質だけを取り出して記憶する能力があります。
しかし、社会人になって最も暇なのは新人の時で、それ以降は徐々に忙しくなっ
ていくばかり。そのような状態でも新しいことを学習できるようにするために
は、最初の段階で Automation の概念を覚え、自分で出来る範囲から自動化し
ていく事を常に意識し続ける事がどうしても必要になる。